ヘッドレスCMSのビジネスメリット
この記事は「CMS(WordPressやヘッドレスCMS) Advent Calendar 2023」の22日目の記事です。
私はかれこれ4年以上microCMSというプロダクトを運営しておりまして、おそらく何百回と「ヘッドレスCMSって何なの?」「何が良いの?」と聞かれてきました。
実は正直なところ、エンジニア向けのメリットが大きく、ビジネス的なメリットを説明することに長らく苦労していたのですが、いよいよ言語化が出来てきたのでここらでまとめてみます。
ちなみにCMS自体のメリットはできる限り除いて、ヘッドレスCMSならではのメリットに絞って紹介していきます。
サイトの品質向上
これはヘッドレスCMSのおかげというよりはフロントエンドの実装次第になります。
高度なフロントエンド実装にCMSを組み込むためにはヘッドレスであることが必須となるため、ヘッドレスCMSが選ばれるという流れです。
速度とSEO
例えばPHPやRuby等でサーバーサイドからヘッドレスCMSのデータを取得し、ブラウザにHTMLを返す場合、構造はWordPressと変わらないのでサイトの品質も同等です。
一方でNext.js + Vercel等を使ったモダン構成の場合、できる限りCDN経由でデータを返す構造になるため、普通に作るだけで高速なサイトが出来上がります。
もちろん従来型の作り方でも自前でCDNを立てて、同様の構成にすることで高速化を図ることは可能です。
高速であることはGoogleのPageSpeed Insightsで確認でき、SEOにも効果があります。
また、モダン構成と従来型構成における仕組み的な差分としてはSPA(シングルページアプリケーション)があります。
SPAではJavaScriptを使ってページ遷移をするため、プリフェッチ(遷移先データの事前取得)を組み合わせるとほぼラグなしでページ遷移をすることが可能です。
SPAではない場合、ページ遷移時に必ずページのロードが走るので、一瞬固まります。(ここもページ単体のロード速度を限りなく速くすれば、ほとんど気にはなりませんが)
セキュリティ
ヘッドレスCMSの場合、管理画面とサイトが完全に分離しているため、攻撃を受けづらい構成となります。
さらに、SSG(スタティックサイトジェネレート)を行う場合はバックエンドと通信を行わないため、攻撃ポイントが完全に隠蔽され、より堅牢となります。
大量アクセスにも強いので、CMなどによる急激なアクセス増加にも耐えることができます。
ここまでを軽くまとめると、
- ヘッドレスCMSのAPIベースという特徴からモダン構成のフロントエンドで実装できる
- モダン構成で実装すると、手間をかけずに高品質なサイトが作れる
- CDNを使えば1ページのロード単体では差はないが、ページ遷移を考慮するとサクサク感で差が出る
- ヘッドレスCMSを使うと管理画面とサイトを分離できるかつ、作り方によってはバックエンドを完全に隠蔽できるため、セキュアである
柔軟性
ビジネスにおけるヘッドレスCMSの優位性を考えると、「柔軟性」は非常に大きなポイントです。
CMSの柔軟性には2種類あります。
- 管理画面の柔軟性
- アプリケーションの柔軟性
それぞれ見ていきましょう。
1. 管理画面の柔軟性
これについてはヘッドレスかどうかはあまり関係ありません。
コンテンツをどれだけ柔軟に管理できるか?という観点です。
コンテンツの種類に応じたデータ形式にどれだけ対応できるか?と言い換えても良いでしょう。
また、コンテンツ編集画面のレイアウトや運用ワークフローにどれだけ自由が効くかというのも大事なポイントです。
これらはある意味、実装すれば良いだけなので、どのCMSベンダーでも対応可能です。特に仕組み的な障壁はありません。
ただ、CMSとしてまさに根幹の部分であることは間違いありません。
2. アプリケーションの柔軟性
こちらはヘッドレスがもろに関係しています。
アプリケーションをどれだけ機能改修に耐えやすいように作れるのか?という観点です。
あまりアップデートしないようなサイトにおいては柔軟性は必要ないかもしれません。
その場合は高品質のサイトが作れるというところがヘッドレスCMSを選択するメインの理由となります。
一方でシステム構成が複雑であったり、UIが複雑であったり、外部サービスあるいは自社DBと連携する必要がある場合などは柔軟性が大事になってきます。
例えば、どんな案件でも最悪スクラッチですべての機能を開発すれば何でも実現は可能です。(とてつもない時間と労力はかかりますが)
誤解を恐れず言えば、ヘッドレスCMSはコンテンツとその入出力を管理しているのみであり、その他はスクラッチで開発するという形式です。
スクラッチと言っても、今はフロントエンド技術の進歩でかなり高品質のサイトが作りやすくなっています。
また、認証・顧客管理・決済に特化したヘッドレスサービス(Auth0やStripeなど)も多く存在しています。
これらを組み合わせて楽をしつつ、最大限に自由度が高い開発を行うことができるのがヘッドレス構成のメリットです。
一方で関わるサービス数が増え、管理の複雑性や料金が嵩むといったデメリットはあります。(そこは弊社としては、サービス間の連携強化などでカバーしていきたいところです)
コンテンツの複数利用による運用コスト軽減
ヘッドレスCMSはAPI経由でデータを取得することができるので、コンテンツを一元管理しながら複数箇所にコンテンツを配信できます。
例えば下記のようなチャネルを自社で持っていた場合、管理画面からコンテンツを公開すると4箇所同時に切り替えることが可能です。
- サイトA(aaa.com)
- サイトB(bbb.com)
- アプリC
- デジタルサイネージD
これはヘッドレスCMSでよく言われるメリットの一つですが、実際のところそれぞれのチャネルとAPI接続して面を調整していくのはなかなか大変です。
そもそもチャネルごとに別部署で管理していることも多く、まとめて運用を変えるとなると、組織全体を見ているレイヤーの方に話を持っていく必要があります。
時間も労力もかなり掛かります。
オススメなのは、まずはどれか一つのチャネルで導入した後に他のチャネルにも広げていく形です。
一つ導入してしまえば、そこから先はデータとAPIは存在している状態なので、各フロントエンドと接続していく作業だけとなります。(とはいえ大変ですが)
おまけ:サーバー管理
ヘッドレスCMSを使うとサーバー管理不要と言われることもありますが、これはヘッドレスかどうかは関係なくて、クラウドかオンプレミスかという違いになります。
例えばWordPress.orgはインストール型(オンプレミス)ですが、WordPress.comはSaaS型(クラウド)なのでサーバー管理は不要です。
microCMSとWordPress.orgを比較する際にはSaaS型とインストール型の比較となるので「サーバー管理不要」という話が出てくるという話ですね。
まとめ
個人的には次の3つがヘッドレスCMSのビジネスメリットだと考えます。
- サイトの品質向上
- アプリケーションの柔軟性
- コンテンツの複数利用による運用コスト軽減
1は技術構成を整えることさえできれば、どんなサイトでも当てはまります。
2はユースケースによってメリットの度合いは変わってきます。より複雑なケースほど得られるメリットは大きいでしょう。
3は実現するまで大変ですが、一度仕組みを作ってしまえば日々の運用が劇的に変わるでしょう。
ビジネスメリットと言いつつ、かなり技術的な話も出してしまいましたが、ヘッドレスCMSのメリットを伝える上で技術観点は欠かせることができないのでお許しを。
microCMSの導入相談がありましたら、いつでもお待ちしておりますのでお声がけください!